人事院の発表によれば、2019年に懲戒免職となった一般職の国家公務員は、26人に上っています(前年比で8人増です)。
懲戒免職とは国家公務員や地方公務員の職を失わせる処分のことですが、懲戒免職となると、クビになってしまうことはもちろん、退職手当や再就職などで不利益を被ってしまいます。
また、懲戒免職の場合、対象者の名前がホームページなどで公表されてしまうこともあります。
このように、不利益が大きい懲戒免職ですが、要件を満たせば、人事院や人事委員会などに対し「審査請求」をして処分の取り消しを求めることが可能です。
審査請求の判定に不服の場合は、裁判所へ取消訴訟を提起することもできます。
懲戒免職になった場合のリスクや、異議申立ての方法について、弁護士が解説します。
参考:平成31年・令和元年における懲戒処分の状況について|人事院
懲戒免職とは?
懲戒免職とは、公務員が罪を犯した場合や重大な過ちを犯してしまった場合に、懲戒処分として公務員の職を失わせる処分のことをいいます。
一般企業の解雇ともいうべき処分で、公務員にとっては最大の罰則です。
公務員に対する4種類の懲戒処分について簡単に解説します。
1. 免職:
公務員の職を失わせる処分のことで、懲戒処分によって行われたものを特に懲戒免職といいます。
2. 停職:
職員としての身分を保有させながら、一定期間、その職務に従事させない処分です。停職者は原則としてその期間中給与を受けることができません
3. 減給:
公務員の俸給の支給額を減ずる処分です。
4. 戒告:
本人の責任を確認の上、本人の将来を戒める旨の申し渡しをする処分です。
上から順番に処分が重いものとなっています。
懲戒免職と懲戒解雇の違い
懲戒免職と似たような言葉として、「懲戒解雇」という言葉があります。
「懲戒処分として辞めさせられるのが誰か」、という点で懲戒免職と懲戒解雇は異なります。
懲戒免職は公務員が対象です。国家公務員法や地方公務員法等の法令で、懲戒免職のルールが決まっています。
懲戒解雇は一般的な会社員が対象です。労働基準法などで解雇に関する一定のルールが定められていますが、そのルールの範囲内であれば会社独自に懲戒解雇の内容を定めることができます。
懲戒免職、懲戒解雇ともに、処分としては最も重いということは同じです。
懲戒免職になった場合のリスクは?
懲戒免職になった場合の主な2つのリスクについて紹介します。
(1)再就職が難しくなる
懲戒免職では名前や職名が公表されるケースが多く、懲戒免職となった場合は、事実上、再就職が難しくなります。
また、国家公務員は、懲戒免職処分を受けた日から2年間を経過するまでは、国家公務員の地位に就くことはできなくなります(国家公務員法38条2号)。
地方公務員の場合は、懲戒免職処分を受けた日から2年間を経過するまでは、原則として同じ地方公共団体の地方公務員の地位に就くことはできなくなります(条例で定める場合を除きます。地方公務員法16条2号)。
(2)退職手当の全部または一部をもらえない可能性あり
懲戒免職となった場合は、全部又は一部の退職手当がもらえない可能性があります。
なお、上記の退職手当の減額・不支給決定を受けても、失業手当相当額を退職手当から受け取れることが可能な場合があります(一般的な会社員のように雇用保険から失業手当を受け取ることができないため)。
失業手当相当額について、詳しくはハローワークにご相談ください。
公務員が懲戒免職になる可能性があるケース
では、公務員が懲戒免職になる可能性のあるのはどのようなケースでしょうか。
ここでは、大きく4つにわけて、一部の例を紹介します。
※地方公務員の場合は、地方公共団体によって懲戒免職となるケースが異なる可能性があります。
(1)一般服務関係
次のような行為をすると、懲戒免職になる可能性があります。
- 正当な理由のない、長期間の欠勤をした場合
人事院の指針によれば、国家公務員の場合、正当な理由なく21日以上欠勤すると、免職または停職となる可能性があります。
- 職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせた場合
- 悪質なセクハラ、パワハラをした場合
(2)公金官物取扱い関係
- 次のような行為をすると懲戒免職になる可能性があります。
- 公金または官物の横領、窃取をした場合
- 人をだまして公金又は官物を交付させた場合
(3)公務外非行関係
犯罪をすると基本的に懲戒免職となります(一部、対象外もあります)。
例えば、次の犯罪をすると懲戒免職になる可能性があります。
- 放火
- 殺人
- 自身が占有する他人の者の横領
- 窃盗
- 強盗
- 詐欺
- 恐喝
- 麻薬・覚醒剤等の所持
- 18歳未満の者に対する一定の淫行
(4)飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
飲酒運転(酒酔い運転、酒気帯び運転)も懲戒免職となる可能性があります。
国家公務員の場合、酒酔い運転で人身事故(死亡または傷害)を起こすと原則として懲戒免職となります。
また、国家公務員の場合、酒気帯び運転の場合でも事故後の負傷者の救護を怠るなど、措置義務違反をすると原則として懲戒免職です。
車の運転があるのにお酒を勧めた職員、または飲酒運転とわかっているのに、その車に同乗した職員も懲戒免職の対象となる可能性がありますので注意しましょう。
飲酒運転以外でも死亡または重篤な傷害を負わせた交通事故も懲戒免職の対象となります。
懲戒免職は異議申立てができる?
懲戒免職を含めた懲戒処分を一般的に「不利益処分」と呼びます。
不利益処分を受けた国家公務員や地方公務員は、要件を満たせば人事院や人事委員会に対して「審査請求」することによって処分取消を求めることができます。
審査請求可能な期間が決まっていますので注意が必要です。
審査請求をしたものの、その判定の内容にも納得がいかない場合には、裁判所に処分の取り消し訴訟を提起することができます。
懲戒免職に納得がいかない場合は、法律の専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。
参考:不利益処分審査請求|人事院
参考:審査請求について|大阪府
懲戒免職前の依願退職について
依願退職(自己都合退職)の場合は、通常は退職手当が支給されます(ただし、免職以外の懲戒処分が下されることにより減額される可能性があります)。
そのため、懲戒免職になるかもしれないと予想される場合に、依願退職する例も多いです。
ただし、必ずしも依願退職が認められるわけではありません。
特に逮捕されているなど刑事手続きがすでに始まっているような場合には、依願退職ではなく懲戒免職として処分される可能性が高くなりますので注意しましょう。
【まとめ】懲戒免職に関するトラブルでお困りの方は、弁護士へ相談しましょう
懲戒免職は公務員がその地位を免除されることを意味しており、最も重い懲戒処分です。
懲戒免職になると退職金が減額・不支給となるだけでなく、再就職も難しくなるという現実があります。
懲戒免職相当の場合でも、依願退職をすることにより退職金が支給される場合もありますが、必ずしも依願退職は認められるものではありません。
懲戒免職の処分に対しては審査請求をすることにより取り消される可能性もありますが審査請求には期限が限られていますので注意しましょう。
審査請求の判定に不服の場合には、裁判所で取消訴訟をすることも可能です。
懲戒免職に関するトラブルでお困りの方は、速やかに弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。